大安寺のご本尊
大安寺開創150週年記念事業の一環として、平成23年に新ご本尊さま(釈迦三尊像)を奉迎することを発願しました。そして、平成28年9月3日に大本山永平寺副貫首南澤道人老師を開眼導師に拝請して開眼法要を厳修した。2011年に構想を開始して以来、製作期間は5年に及びます。制作は江埸佛像彫刻所(代表:江埸琳觀音大仏師、愛知県長久手市)に依頼しました。本形態は禅宗古来の形式であり、一般的な文殊菩薩と普賢菩薩を従える釈迦三尊像ではなく、作例が非常に少ない中尊である釈迦如来の脇侍に初祖摩訶迦葉尊者とニ祖阿難尊者を従える構成としており、「拈華微笑の話」のエピソードに基づいています。
「拈華微笑話」とは、インド各地を巡っていた釈尊(釈迦)の一団が霊鷲山で大衆に説法したおり、梵天が一本の華を釈尊に献じた。釈尊はこれをつまんで示したが、大衆は誰もその真意を理解することができませんでした。長老の摩訶迦葉尊者だけがその真意を悟り破顔微笑したため、釈尊は摩訶迦葉尊者に、「我に正法眼蔵、涅槃妙心、実相無相、微妙の法門あり、不立文字、教外別伝あり。今、摩訶迦葉に付嘱す」と告げて、禅の法門を伝えたといいます。禅門において、以心伝心によって法を体得する妙を示す故実です。
「拈華微笑話」については、しばしばこの話がインドにないことを知り、中国で創作された「大梵天文仏決疑経」に初出するとする人があるが、禅宗ではその疑経がなくとも既に『天聖広燈録』(1036年)で成立しています。この場面が釈尊の開悟した心理が誰かに伝わる(伝播していく)最初の一歩であったととらえ、仏教伝播(伝法)の源流と位置づけたことが、大安寺ご本尊制作のデータとなった所以です。像容は、江埸琳觀音大仏師が大安寺計画のために新たに創意したもので、理想化された仏像特有の様式で表した釈迦如来像と、写実的に現し繊細な心情まで描写する摩訶迦葉尊者像と阿難尊者像を同居させました。「人間」として表された摩訶迦葉尊者・阿難尊者が、私たちと同じ人間でありながらもやがて釈尊の到達した境地を理解するという、現代を生きる私たちとの連続性が意識されています。
釈迦如来像は木曽檜の良材をふんだんに使い、木肌の美しさを生かし金箔の特殊な装飾技法の「戴金」を用いて、繊細な装飾を纏っています。頭部には1044個の髪の毛を一つ一つ個別に制作し植え付ける「螺髪」や、水晶を顔の内側から嵌め込んで目を表す「玉眼」の技法を施し、台座、光背を彩る「岩絵の具や金箔・プラチナ箔」などの贅を尽くした素材の荘厳は壮麗な美しさを表しています。摩訶迦葉尊者像は晴れやかに微笑する表情を表し、ところどころにほころびが表現された着衣には、きらびやかさの中にも「頭陀行第一」を旨とし同じ衣を纏い続けたとされる摩訶迦葉尊者の長大な旅路を感じ取ることができます。
阿難尊者は、釈尊の間近にありながら未だ悟りに至らない苦悩を内包する表情を浮かべています。数ある仏弟子の中でも最も多くの釈尊の説法を聞いた「多聞第一」と称えられます。
三尊それぞれに体躯や衣服の表現を変えており、個々の設定は、顔の表情や筋肉、骨格はもとより、わずかに残る彫刻刀のタッチにも及びます。これらの一尊一尊敬の個性に合わせて設定した多種多様なディティールも、おおいに本作の見どころです。
釈迦三尊像
(主尊:釈迦如来、脇侍:摩訶迦葉尊者・阿難尊者)
阿難尊者像(あなんそんじゃぞう)
(本体)高さ2,150mm X 幅750mm X 奥行き650mm
檜材 淡彩色 截金仕上げ
(台座)岩座 岩絵具彩色 檜材 漆箔仕上げ
釈迦如来像(しゃかにょらいぞう)
(本体)高さ3,530mm X 幅1,740mm X 奥行き1,525mm
檜材 寄木造り 木地截金仕上げ
(光背)宝相華唐草透かし文様 舟形光背 檜材 漆箔仕上げ
(台座)八角古代型 葺き寄せ蓮華 檜材 漆箔仕上げ
摩訶迦葉尊者(まかかしょうそんじゃぞう)
(本体)高さ2,150mm X 幅750mm X 奥行き650mm
檜材 淡彩色 截金仕上げ
(台座)岩座 岩絵具彩色 檜材 漆箔仕上げ